ブラッコムの一番下のクワッドはチケットのチェックがある唯一のゲートだ。長くて速いクワッドで3合目あたりへ。ここからさらに乗り継ぎ、ランデブーという名のレストハウス行きの長いクワッドに乗る。それにしても圧雪が丁寧だ。誰かが滑る前に、何とか先に滑ってやれという気にさせるほどだ。そこへスクールの先生らしきうまい人が滑っていると、自分の魂が乗り移っているような錯覚になる。「ああ、あれは5分後の自分の姿だ」なんて、勝手な想像をしてしまうのだ。
少し早く来たようだ。今日もロッジの客と滑るつもりなので、先に1本だけ滑ってみよう。今クワッドで見てきたコースを滑る。
ところがこのコース、圧雪がいきとどいているのに、実に手ごわい。日本ならばコブ斜面として放置するような傾斜を圧雪しているのだ。2級も持っていなかった私は暴走を避けるために、立ち止まったりするのだが、クワッドから丸見えなので、どうもかっこ悪い。さらにウィスラーもブラッコムも基本的に頂上からビレッジに向かっては北向き斜面だが、所々で西向きもある。そのため朝は空が明るくても足元が暗めだ。さらに時々すごい傾斜があり、ハッとするや身の丈ほどもストンと落ちてしまう急傾斜があり、スリル満点だ。ああ、怖い。それでもなんとかクワッド1本を滑り、集合場所へ向かう。班分けではカメ班の希望者が多かったため、私はまたも戸塚班になった。
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■スキースクールなどのインフォだ |
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■これがTree Skiのための間引きコース
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■左がレストハウスで、正面がW-CUPの
モーグルバーン |
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■ティッシュの設置は日本でも見られる
ようになった |
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■シングル・レーンの入り口
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ここで再びアルパインロッヂの経営者を紹介しよう。兄はジェフといい、弟はキャムという。この兄弟は日本語が堪能なのは同じだが、とても兄弟とは思えないほど性格が違う。兄は自分が楽しむことを最優先し、時には客を置き去りにするのは平気で、戸塚班では無理に班に編入させておきながら、遅いと「あっちの初心者コースを回ってこい」とか平気で言ったり、女の子が雪の中でもがいていると「まったく、これだから女はだめだ(もちろん本人に聞こえないように。基本的に女好きだが、ゲレンデでは女嫌いになる)」と言ってのける。もっとも、ウィスラー周辺ではもともとこういうキャラクターで知られているらしいので、これはこれで仕方ない。基本的に面白い男で、彼のファンは多い。
それに対して弟のキャムは実に思いやりがあり、堪能な日本語でのガイドもかなり真剣に説明してくれるし、とにかくホスピタリティに溢れている。ブラッコム氷河へ入る登りでは、へとへとに疲れた女性客の板と自分の板の2セットを黙々と担いで登っているのを見ると、こちらまでうれしくなってしまう。彼に会うために来る人も多い。ところが彼の日本人の奥さんの道代はちょっと慣れてくると言葉遣いも含めて、客をともだち扱いする、ひどい女だ。ある時、ゲレンデでアメリカ人が「ホワイトスネイクに噛まれた」と言っていたのを聞いて、ホワイトスネイクとは何か道代に尋ねたら、笑いながら「白い蛇が来て、ガブッと噛んじゃうのよ」とまともに教えない(というか、客をからかう)。ムッとして何だか教えろと言っても、さらにからかうように「白い蛇がいるのよ」としか言わない。万事がこんな調子だ。初めて来る客には熱心だが、ちょっと慣れると「あんたたち、分かってんの」という感じで接する。完全な友達以下扱いだ。しかし、金を払っているという事実を忘れてもらっては困る。ちなみに私と同じ時期に2年連続してきていた某常連はその後とうとうケンカして、アルパインロッヂに行かなくなったという。旅行でも、一番思い出に残るのは人間。食事や交通でいやな思いをしても忘れるものだが、人間に関する思い出はいつまでも残るものだ。もしいやな思い出を残したくなければ、このような宿には泊まらないことだ。なお、キャムと日本人妻の道代は、今はファーニーに新設されたアルパインロッヂにいる。
話を戻そう。戸塚チームに限らず、全員がセブンスヘブンに行く。ここは聖書に出てくる地名をとったものらしいが、実に広々とした、木が生えていない地形である。ただし、幾分南向きで、雪が少ない時は岩や石ころが出やすいので、新しい板を履いている人は要注意だ。ここからはウィスラーの向こう側にブラックタスクを見ることもできる。このへんをウダウダ滑ったあと、林間コースへ。
日本では木の間を滑ると怒られるが、ウィスラーでは自由であることはウィスラーの最初のページで述べたとおりだ。この林間スキー(Tree Ski という)のためか、コースには木を間引きして、滑りやすくしたものもある。
とにかく日本ではあまり体験したことがないパウダーなので、転びまくって滑った。
その後、ホーツマン氷河まで登る。木が生えていないので、いかにも外国に来たぞという感じだ。ゾクゾクしてきた。ただし、その上のブラッコム氷河は今日は閉鎖されているというので、後日行くことにしよう。
昼食はランデブーが混雑していたので、クワッド1つ分下にあるレストハウスへ。ここの目の前にはえらいコブ斜面が一直線にあるが、ここは1月の半ばに、モーグルのワールドカップが行われるコースらしい。
昼食のお勧めはサンドイッチ(日本でもよく見かけるsubwayのようなもの)がいい。それに熱いスープをつけて、持参のリンゴで完璧だ。子供連れのおじさんがリュックから何か固まりを出すので、何かと思ったら小型のデコレーションケーキほどの大きさのチーズであった。これをナイフで豪快に切っていた。こんなの食べたら、鼻血が出そうだ。
なお、写真にもあるように、ウィスラーが外国であると一番感じたのは、このリフトであった。この話は長くなるので、エッセイの「リフトに思う」を読んでね。
午後はいつも自由行動になる。私は最初の2日はみんなとくっついていることにした。明日から、できるだけ自由に写真をとりにいこう。