クイーンズタウン・スキー日記:8〜9日目

      移動日(クイーンズタウン〜クライストチャーチ〜
                ウェリントン〜オークランド〜東京)

                  地獄の釜は最終日に口を開けていた


 
早く飛行機来ないかなあ
■空港の滑走路にはうっすらと雪が
■空港前の山をバックに

  今、このクイーンズタウンを振り返ると、楽しかったスキーの日々が次々と思い出される。− 遅刻したリマ−カブル、感動のコロネットピーク、キーアも歓迎してくれたトレブルコーン、リベンジを果たしたカドローナ。初めて見た南十字星、あちこちで見かけた羊の大群、木のないゲレンデ − 。しかし、そういった楽しかった思い出を一撃で掻き消すのが最終日の大強行軍である。

 前日の夜、クイーンズタウンの街には雪が降った。周囲の山にはスキー場が多いものの、街自体にはほとんど雪が降らない、降っても積もらないものらしい。ところがこの年は雪の当たり年で、街に雪が降り、空港の滑走路にも数センチの雪が積もったとのことだ。
 最初はそのニュースを聞いたとき、誰も何も騒ぐことはなかったが、実は数名のスタッフは顔を曇らせていた。クイーンズタウンの空港は除雪の設備が無いのだ。めったに積もるような雪が降らないので(写真を見よ、すぐ近くには雪山があるというのに)、積もられると、大変な作業になるらしい。
 今日の予定は朝早く出発し、クライストチャーチ経由で昼にはオークランドに入り、半日観光して、翌日の朝9時の便で成田へ向かうことになっている。ところが除雪が遅々として進まない。
 すると滑走路から飛行機が一機、飛び立っていくではないか。なんだ、大丈夫じゃないの。早く行こうよ。ところが、我々の乗る飛行機は今クライストチャーチにあって、クイーンズタウンの空港が着陸できる状況にないので、待機しているらしい。飛行機は、離陸は簡単でも、着陸の方は難しいらしい。
 空港に2時間以上いたが、結局、飛行機は来れないので、クライストチャーチまでバスで行き、そこから飛行機に乗るようにとのことだ。他のJTBその他のツアー(私はF社のツアーであった。スキー専門の旅行社というので、どんなもんか知りたかったという理由もあった)客といっしょにバスに乗り込む。ここから7時間以上バスに乗るという。うわあ、苦手だなあ。なお、添乗員は付き添わない。クイーンズタウンでの日本人添乗員のR.Tは「飛行機会社が手配する代替バスに乗ってクライストチャーチの空港まで行ってください。向こうで現地係員が待ってます。クライストチャーチからオークランドへは飛行機がバンバン飛んでいますから」とのこと。
 バスはサザンアルプスの山並みを縫うようにしてクライストチャーチへ向かう。景色はいいが、スキーで見飽きた感もある。
 途中、ドライブインによる。ここではバス客は無料で食べることができるのだが、きちんと添乗員が着いていないので、金を払ってしまった客もいたようだ。

 さて、暗くなってからクライストチャーチに到着。ところが、添乗員は待てど暮らせど来ないので、バスから降りることができない。JTBや他社のツアー客は現地係員に連れられてバンバン降りる。バスの運転手は我々F社のツアー客に早く降りろという。我々は30名ほどいて、JTB等他社は10名以下なので、最もメジャーな団体だが、立ち往生してしまったのだ。すると空港職員がJTBの日本人ガイドを拝み倒し、通訳として連れてきた。JTBのガイドが言うには − 「クライストチャーチからオークランドへ行く飛行機はもうありません。明日、オークランドでラグビーの大きな試合があるからです。ラグビーはニュージーランドの国技なので、飛行機は臨時便も合わせて満席です。なお、当JTBではこの事態を受けて、現地係員により、クライストチャーチの今晩のホテルと、明日のオークランド行き第1便(翌日9時発成田行きに接続できる)の飛行機の席を確保しました。あなた方F社さんはどうなさっているか分かりません。私にはお客様がいますのでこれで失礼します」だと。JTBの10名ほどのツアー客はガイドに連れられてチャーターバスで去って行った。我々は4頭立て馬車で走り去る王侯貴族を茫然と見送る、孤児のような心境であった。
 話し終わったのを見て空港職員は、さあ、事情がわかったら降りろという仕草で我々をバスから下ろした。
  
■ウェリントンでバスに乗る

 このままでは済まない。F社の現地係員がいない。何が現地係員が待ってます、飛行機がバンバン飛んでますだ!。 メンバーの一人がクイーンズタウンのR.Tに電話を入れると、あわてて連絡を取ったようで、ニュージーランド人の若いねえちゃんみたいな日本語を話す現地係員がやってきた。そして、「明日の朝イチの飛行機は取れないので、今から飛行機で北の島のウェリントン(ニュージーランドの首都でもある)に飛んでください。そこから夜通しバスに乗って、オークランドに行きます。朝9時の成田行きには間に合うかもしれません」という。何が間に合うかも知れませんだ!。我々が遅れて到着することは、JALに連絡されているのだろうな?。すると「30分くらいは待ってくれます。でも、それより遅くなると...へへへ、言わない方がいいね」と、我々の不幸を楽しんでいるかのような表情だった(申し訳なさそうな表情は全く見られなかった。終始、ヘラヘラ笑っていた。当事者意識はまるで無いようだ)。怒り心頭であったが、とにかく今は明日の成田行きに乗ることだ。今後のF社に対する抗議について協議しながらも、ウェリントン行きの飛行機に乗る。できれば、そのままオークランドまで飛んでもらえないだろうか。金はF社が出すから。
 さて、深夜となったウェリントンでバスに乗る。途中ではガソリンスタンドに給油で1回寄っただけだが、スタンドのトイレは小さいため、女性が並んでしまい、かわいそうだった。しかも時間は無い。なにしろ、ただでさえ半日、500kmの道をバスに乗ってきたというのに、これからさらに夜行で600km以上の距離を走るというのだ。しかもその後には12時間以上のフライトが待っている。もう背中がおかしくなりそうだ。数人はバスの床にごろ寝を始めた。昼食以来、口にしたのはウェリントンまでの飛行機で出た小さなパンケーキだけだった。バスは暗闇の中を走りつづけた。
 
 朝、オークランドの空港に到着する。時間通りだ。しかし、出迎えのF社現地係員は我々のことを理解していなかった。前日の午前中、クライストチャーチからオークランド入りしていたマウントハット組(オークランドのホテルに泊まっていた)の手続きをしている時に我々が現れ、どうも我々に対する言葉遣いや指示の出し方に常識を疑うようなものが多かった(いちいち説明すると長くなるのでやめるが、とにかく複数の怒鳴り声が飛んだことを付しておこう)。
 飛行機に乗ったあと、我々はその後の対応の仕方を話し合ったが、変に代表を立てるのは住所がバラバラなのでうまくないだろうということになり、結局、全員がいっせいにF社の本社に抗議することにした。
 帰宅後、さっそく怒りの抗議文をF社に送りつけ、対応を待った。するととりあえず参加者全員に謝罪文とJALの粗品(多分、ファーストクラス客用のスーベニア)が送られ、さらに少し経ってから全員にオークランドのホテル代金を返金する旨の通知が来た。
 謝罪内容はここで発表するものではないが、とりあえず言い訳がましいものではなかったので、個人対企業としてはこれが限界であっただろう。とりあえずは納得はした。
 
 今回の一件を整理してみよう。まず、飛行機が飛べないのは天候によるもので、これはあきらめるしかない。しかし、このような事態になった場合、現地添乗員のR.Tは最後まで我々をケアすべきであった。クライストチャーチのねえちゃんの態度は論外であり、こういうのを雇ってしまったF社は雇用責任を負わなければならない。JTBのようにすぐに翌日の朝イチの飛行機を押さえることができたかは、今となっては不明だが、最初から何も策を講じようとしなかったことは全くの不手際である。
 
 「プロとアマの差」とは何か。私は、マニュアルに載っていないような、めったに起きない不測の事態が発生した時にどういう対応ができるかによって、その違いが出ると思う。クイーンズタウンの空港から飛行機が飛べないと分かるや、すぐにホテルと翌日の飛行機を手配したJTBはさすがプロといえるだろう。そして、F社はアマチュアの領域を脱していなかった。
 また、天気が悪かったとか、添乗員の不手際のようなものは時間が経てば忘れるものだが、あのクライストチャーチの現地係員の態度は今でも忘れることはできない。サービスマーケティングの世界でも、本当の苦情は、ミスそのものよりも、そのときの従業員の対応にあるという。そして製品や商品に対する怒りはすぐに忘れても、人に対する怒りは長く忘れられないというが、全く身をもって知ることになった。
 
 私はその後、数年はF社を使うことは無かったが、出発日程や休暇の都合、そして直前に申込みがOKか否かという点から、泣く泣くマウントハットとツェルマットで再びF社を使った。クイーンズタウンがひどすぎたせいか、幾分ましになった印象があるが、油断はならない。
 
家に帰るまでがスキーである。本当の試練は最終日にあったのだ。
 




追加になるが。旅行代理店を選ぶ時は、大手の方が料金が若干高くても、それは保険だと思った方がいい。これは事故や不測の事態への組織的対応、ノウハウへの対価である。このことはフランスW杯のチケット不足問題で、旅行代理店によって補償等の対応の度合いが異なっていたことからも分かるだろう。
 私は海外旅行は格安チケットを利用するが、両親が欧州旅行に行ったときは、説得して大手を利用させたものだ。






クイーンズタウン・スキーの概要
日記:1・2日目(東京 〜 クイーンズタウン 移動日)
日記:3日目(リマーカブル)
日記:4日目(カドローナ)
日記:5日目(コロネットピーク)
日記:6日目(トレブルコーン)
日記:7日目(カドローナ2回目)
日記:8・9日目(クイーンズタウン 〜 東京 移動日)