清水さんが初めて団体で国際試合に出場したのも大学4年生の時だったそうです。 でも、「チェス」って難しそうだし、そんなにトレーニングが必要だなんて、中々気軽に始めることの出来ないものなんでしょうかね?



「そんなことないですよ。ゲームを楽しむことは誰にでも気軽に出来ます。ルールは簡単に憶えられるし、将棋を少しでもやったことがあれば、駒の動かし方はたいして変わりませんからすぐに出来ます。もともとチェスの発祥はインドのシャトランガというボードゲームが起源だといわれているんです。それが中国や東南アジアに渡って日本に入って来たのが将棋で、イランを経てヨーロッパへと伝わって行ったのがチェスになったといわれているんです。もともとの起源は一緒なんですよ。
チェスが将棋と最も異なる点は、一度取ったり取られたりした駒は、もう使えないってところです。だから駒の数が段々と減っていくワケですよ。そんなところが将棋を指す人には、面白くないんじゃないか?、と聞かれることもありますがそれは逆で、エンディング(駒が少なくなった状態)の局面で、いかに有効に駒を動かすかが、チェスの面白いところでもあるんです。もちろん、そういった面白味を感じるには少し時間がかかるかも知れませんが、その面白味を段々と理解出来ていくプロセスがまた楽しいんですよ。始めて数ヶ月も経てば、誰でもマスター(名人)の棋譜(1ゲームの指し手を全て記録したもの)を読めるようになりますから、そうすると今度は、さまざまな名勝負を楽しむことが出来るようになるワケです。 素晴らしい棋譜とは、素晴らしい芸術作品と同じなんです。だから、例えばクラシック音楽を聴いたり、文学を読んだり、絵画を見たりするように、ひとつの芸術作品として「鑑賞」出来るものなんです。歴史に残っているグランドマスター同士の名勝負の棋譜を並べてみると、その創造性や美しさに感動しますよ」

("グランドマスター"とは、非常に優れたチェスプレイヤーに与えられる称号)
大学生の清水さん
若かかりし?時の
清水さん。
サンディエゴにて。


大学生の清水さん
こちらは
ニューヨークでの
清水さん。
外国人対戦相手と
格闘中。

なるほど。名勝負の棋譜を並べてみるのは芸術作品を鑑賞するのと同じなのか。何か、解かる気がします。棋譜には、そのゲームの熱気が染みついているとのこと。例えば、自分がかつて指したゲームの棋譜を見ると、その思い出が蘇って来るとも…。様々な大会に出場して来た清水さん。そのたくさんの思い出を、大事な写真を見せてくれながら、語ってくれました。



「初めて国際試合に出たのが、香港での大会で、対マレーシア戦でした。その時は団体戦だったんですが、私以外の選手はもう既に試合を終えていて、それまでのポイントはちょうど同ポイントで引き分けだったんです。つまり、私の試合の勝敗にチームの勝敗がかかっていたんです。だから私はどうしても勝ちたかったんです。でも、相手の選手も非常に優れた選手で、簡単に勝てるような相手ではありませんでした。ですけど、粘りに粘って、5時間30分もかけて120手くらい指して何とか勝てたんです。相手がキングを倒した時(※「チェス」では、キングを横に倒すと負けを認めることになる)の安堵感といったら、今でも忘れられませんね。途中で投げ出さなくて良かったってつくづく思いました。試合を終えた後はもう、疲れ切っていましたけど、いい思い出ですね。 自分にとって一番のベストゲームだと思うのは、ラスベガスで行なわれた『ナショナル・オープン』という強力なトーナメントでの第四局です。開始してすぐに複雑な局面になってしまって、自分が優勢なのか劣勢なのかもさっぱり解からなくなってしまったんです。その時に、勝負手となる一手を指すのに55分もかかりました。悩みに悩んでこれがベスト・ムーブだろうという一手を何とか見つけることが出来、結果的にはそのお陰で勝てました。悩んだ甲斐があったというか、その一手は忘れられない一手ですね。後で試しにコンピュータにそのゲームを分析させてみたんですよ。そうしたら、やっぱりコンピュータもその局面で同じ手を指したんです。なぜか、無性に嬉しくなりました。あのゲームは、今でもその一手一手が忘れられない、私の宝物のようなベストゲームです」
キングを倒す
キングを倒すと…。

ナショナルオープン
忘れられない対戦。
ナショナルオープン
での清水さん。
<黒ベエ>
「チェス」のルールは万国共通。それに将棋のように、漢字が書かれているのではなく、形で駒が解かるので、世界共通のゲームなのです。だから言葉が通じなくても世界中の誰とでも楽しめるのです。そんなところも、「チェス」の魅力だと清水さんはいいます。「チェス」を通していろいろな世界を見ることも出来たし、いろいろな知り合いも出来たそうです。清水さんは「チェス」を通して世界にふれたんですね。



「国際大会の思い出は語り尽くせないほどたくさんありますね。『ナショナル・オープン』の時にはサミュエル・レシェフスキーや天才少年カムスキーの試合を見ましたが、やっぱり強かったですね〜。『ニューヨーク・オープン』なんてスゴイですよ。もう、街を挙げてのイベントですからね。集まって来る選手たちも強豪揃いで、私なんか吹き飛ばされるかのように負けてしまいました(笑)。だけど、いい思い出です。ニューヨークもロンドンと並んでチェスが盛んなので、ワシントンスクエアの公園では、皆気軽にゲームを楽しんでいるんですよ。チェス・ショップも覗いて来たんですが、物凄い品揃えでした。余談ですが、そのワシントンスクエアの近くにあるチェス・ショップは、チェス好きにとっては、まさに聖地といっても過言ではありません。(笑)。 ロンドンに行った時もそうでしたが、チェスが街に根付いていてとてもうらやましいなと思いましたね。
意外に思われるかも知れませんが、旧ソビエト連邦や東南アジアのほうも、チェスが非常に盛んなんですよ。ひと昔前はモスクワは"チェスの首都"って呼ばれていて、旧ソ連は小学校の授業でチェスを教えていたくらいなんです。子供の頃に集中力や忍耐、そしてさまざまな幅広い考え方を養うのに非常に適しているからです。特にコーカサス地方では、嫁入り道具にチェス・セットを贈るほどなんですよ。フィリピンなども盛んで、マニラで『世界チェスオリンピック』が開催された時なんて、ホテルの受付の脇に大きなボードを用意して、グランドマスターの試合を中継していたほどなんです。 チェスというのは、本当に国際的なゲームなんですよ。私が対戦して来た選手たちにも、アラブやインドやマレーシアといった英語すら通じない国の選手たちもいました。でも、チェスは言葉がいらないんです。外国人とコミュニケーションを取る上でも、そして教養としても、チェスを勉強することは良いことなんです」
レシェフスキー
レシェフスキー

天才少年カムスキー
天才少年カムスキー

ニューヨーク・オープン
ニューヨークオープン

チェスを楽しむ市民
公園で気軽に
チェスを楽しむ
市民。

チェスショップ
チェスの聖地、
ワシントンスクエア
のチェス・ショップ。


チェスオリンピック
マニラで開催された
世界チェスオリン
ピックの風景。
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