ここは日本か |
2005年レポート(12) 旭川-3 |
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今回の旭川遠征の5つのスキー場でメインはどこですかと聞かれたら、どれも特色があってすべてがメインと言いたいところだが、あえて言うならやはり大雪山旭岳だろう。スキーを始めたころのスキー雑誌に、春スキーのスキー場の番付が掲載されていて、東の横綱としてこの旭岳が紹介されていた(西の横綱は立山山岳)。番付などどうでもいいが、そこに掲載されていた写真を見て、日本には本当にこんな場所があるのか、ひょっとして海外の写真を間違えて掲載したのではないかと疑ったものだ。そしてこの旭岳こそ、今や数少なくなった「行くべきなのに行った事が無いスキー場」の筆頭でもあった。
ところで「大雪山」とは山系を指しており、「大雪山」という山そのものは存在しないのだが、代表者出て来いとなると、北海道最高峰でもある主峰の旭岳(2290m)が写真等で「大雪山」として紹介されることとなっている(昨日の黒岳は1984m)。ちなみに、大雪山国立公園は日本で最大の国立公園であり、神奈川県と同じくらいの広さがある。 |
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旭岳ロープウェイスキー場の地図(公式地図を加工)
 
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山麓駅だ |
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赤いロープウェイが映える |
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すごい景色だが山は全体が見えない |
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山スキーの一行。
気をつけてなぁ! |
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これが問題のコース。
向こうの鉄塔の手前に長い上り坂がある |
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なんとか上りきってから振り返る。
あの高い所から直滑降でやっとだ。
右は途中で板を外して登ってきたスキーヤー |
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合流地点の広場。
背景はパウダーエリアだ |
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上の写真のガケを滑り降りるボーダー。
気持ち良さそうだが |
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これが雪崩れの跡。
ズズズッと伸びている |
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アカエゾマツの森林コースはホッとする |
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さて、旭川から1時間くらいのところなので朝イチに間に合うくらいのつもりでホテルを出たが、どうも天気が気になる。一般に「その地方の天気が悪いという予報の時は山の天気も悪いが、その地方の天気がいいといっても山がいいとは限らない」ということだ。昨日の黒岳でも、ふもとの層雲峡そのものは何の問題もなかったが、黒岳はほとんど雲に覆われていたうえ、風が強くてロープウェイが止まってしまい、あやうく登れないところだった。だから旭川市を出て天気が良くても全く油断がならなかった。電話で問い合わせたら、とりあえずロープウェイは動いてはいるが山の上は風が強く、保証の限りではない、という。大雪山系が見えてきた。山頂あたりは雲に覆われて見えないではないか。ううむ、ドキドキだ。
そうこうしているうちに旭岳ロープウェイ山麓駅に到着。さっそく券を買うことにするが、ここで難問が発生してしまった。というのは、ここの料金は、1回券が1,000円、4時間券が2,800円、1日券が3,800円というものだ。4時間券のモトをとるには3回乗ればいいのか。ところが券売り場のオバさんは「4時間券や1日券の場合、強風で運行中止になっても払い戻しはいたしませんが、どうしますか」と、まるで私に勝負を挑むかのような口調で言い放つのであった。ううん、どうしよう。八甲田ロープウェイの時は回数券を払い戻してくれたのになあ。ここで迷いを見せずにきっぱりと「1日券1枚」とタンカをきれば江戸っ子の面目躍如というものだが、昨日の黒岳のことがあったし、あっさり「そうですかあ」とか言って、弱気の1回券でオバさんの軍門に下ることになった。不本意ではあるが、とにかく油断は禁物で、引くこともしなければならない。悪い予感の時に強気に出ると、必ず裏目に出る。だから弱気に出るが逃げはしない。そして日ごろから行いを正し、徳を積んでおけば最悪の事態は免れる。これこそ200
SNOW REPORTSが今日までやってこれた秘訣といっても過言ではないのだ。
さて、ロープウェイは急に混雑してきた。1本だけ待って乗ることができたが、周囲の客はほとんどスキーヤーとボーダーだ。ロープウェイからの景色はちょっと海外のスキー場に来たような景色だ。前方の山はかすんでいたが、コースは晴天のようだ。10分ほどで姿見駅に到着した。ここで初めて旭岳に行く人には注意して欲しいのだが、到着駅から駅舎に入る前に左側に通路があり、地図のBコースへ行くならここを通らなければならないということだ。大勢のときは2手に分かれるのですぐに気づくが、ロープウェイの写真を撮ったりして一人で歩いてうっかりまっすぐ駅舎に入るとAコースに誘導されてしまうから注意だ。
さてさて、やさしいBコースからスタートしたいので脇の通路を通り、駅舎前の積雪を1分ほど登るとすごい景色が待っていた。木が1本も生えていない真っ白な平原の向こうには旭岳が半分ほど雲に隠れながらも、その雄姿を見せていた。すっきりと見えたわけではないが、むしろ半分隠れていたほうが威圧感がある。北海道の真ん中で北海道全体を支えているという貫禄がある。中腹のあちこちからモコモコとわけの分からん白い煙を吹き出しているのも、どこか不気味でよろしい。それにしても「広大さ」というものは写真ではなく肉眼でないと分からないものだ。日本にもこんな海外のような景色のスキー場があったとは。立山山岳は岩がゴツゴツの氷河地形だったからヨーロッパアルプス風の景色であったが、こちらは森林限界を超えた広大な北米のスキー場のようであった。そう、大雪山とは、大雪の山と書くではないか。しばらく見入ってしまったが、さすがに夏のみならず冬でも景色を見にくるだけの観光客がいるというだけのことはある。
軽く体操してから、まずはBコースから。ここは最初の斜面が森林限界を超えている、木が一本も生えていないコースだ。吹雪かれたらおしまいだが、いちおうポールがずっとコース沿いに並んでいる。晴れている時に見るとほほえましさすら感じるポールだが、吹雪いたりガスったりした時はまさに命の綱だ。ウィスラーのハーモニーボウルのポールコースを思い出してしまった。風景写真には目障りな蛍光色のポールだったが、吹雪かれた時には本当にお世話になってしまったものだ。ゆっくり風景を見ながら滑り降りる。慣れている人やボーダーは早速非圧雪エリアへ飛び込んで行っているが、初めて来た者がそれをやるのは2本目以降だ。
このBコース、ちょっと注意だ。ロープウェイと交差する手前くらいに上り坂がある。この手前の急斜面で思いっきり直滑降をしないと上り坂で苦しむことになる。見ると先には板を外したボーダーやカニ歩きのスキーヤーがいるではないか。前方に注意したうえ、直滑降で滑り、ちょうど勢いで登りきったあたりで上り坂が終わる。そしてこのあたりからアカエゾマツの森林地帯が始まる。ロープウェイの鉄塔までは平坦なコースだ。このへんは非圧雪コースへ飛び込む人たちのシュプールが多いから注意だ。最初の1本はCコースがお勧めだろう。比較的固くならされたバーンになっていて、滑りやすい。特にAコースからの合流地点はちょっと広がった空間になっており、Aコースから非圧雪地帯に回りこんだ人たちのワイルドな滑りを見ることができる。そしてCコースはやや幅が狭い山道のようなコースだが、本州から来た者にはアカエゾマツの森林が新鮮で、ちんたら滑っていても楽しいくらいだ。
さて、2本目。天気は山頂は良くないものの、悪くないと見込んで、いよいよ勝負だ。4時間券を買うことにする。ということは最低3本は滑るということだ。券売り場のオバさんがさっきと同じ口上を述べたが、「りょうかいです」とだけ言って買った。
2本目以降はあまり並ぶこともなく、ロープウェイで姿見駅へ登る。するとどうだろう、さっきよりもずっと天気がよくなっているではないか。旭岳は丸見えだ。しかも中腹からの煙が良くみえる。温泉の湯気かな?。それとも火山性ガスかな?。そういえば山スキーのパーティーがいくつか登っているのも見える。きっとすごい眺めだろうなあ。
2本目はAコースへ。ここは降りて右側に回り込むのだが、パウダーエリアが広く、中上級者には人気があるようだ。というか、Bコースのあのボーダーにはつらい上り下りを避けてという意味もあるだろう。ここを滑ってBコースとの合流地点に来た。ここでパウダーエリアを豪快に滑るボーダーを望遠レンズで見上げて撮影していたときのこと。突然、付近のボーダーが「ナダレタ!」と絶叫した。はっとするとボーダーが滑っている上に小さな雪崩れが発生していた。それは厚さはないものの、長い舌を伸ばすようにいつまでも止まらずにボーダーを追いかけているように見えた。生き物のようだ。「雪崩れてるぞ!」その声が届いたのか、ボーダーはわき目もふらずに直線的に降りきった。雪崩は止まっていた。ちょっとした緊張だったが、もし単独行動でもうちょっと大きな雪崩に巻き込まれていたら、えらいことになっていただろう。自然の中で楽しむスポーツは常に油断は禁物だ。
森林コースを滑り、3本目。いいかげん腹が減ったが時間がもったいないので姿見駅の中にある自動販売機の焼きそばを食べた。本当ならもっと滑ることができるはずだが、写真だのビデオだの撮りまくりながらなので、こうして時間をかせぐしかない。そして再びBコースからDコースへ。このころ、なんだか天気がおかしくなってきた。どんよりした雲が空をおおいはじめたのだ。何か心配だ。さらにここのDコースはところどころ訳がわからないところがあるので、だれか集団が滑っているあとについていくのがいい。そして4本目は4時間券の3本目だ。時間的にも私のスケジュール的にもこれが最後になる。トータルで3,800円払って時間いっぱい使ったから、結局1日券を買ったのと同じで、最初の1本は保険のようなものだったからよしとしよう。 |
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これが最後の1本。完全な吹雪だ。
手前が赤いウェアのおばさん |
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ポールコースは命の綱だ
(肉眼ではもっとガスっていた) |
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ロープウェイの下あたり。
スキーヤーのシュプールは消えていて、
ボーダーのものがぼんやり残っていた |
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も、もういかん!
絶対に左に曲がれないぞ! |
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ところが最後の1本のころにはロープウェイに乗っているあいだにガスが出始め、雪まで降り出しやがった。雪が降ってしまえば、下山するに限る。景色や非圧雪が売り物で、バーンそのものに魅力があるわけではないスキー場では、ガスを伴う降雪は単にキケンなだけだ。いったん姿見駅のトイレに寄ってから、ゲレンデに出た。同じロープウェイで登ってきた人たちはみんな先に滑り降りているから、単独で滑り降りなければならない。安全確実に下山するならBで決まりだ。と、そこへ男1人と女2人の高齢者のグループが呆然として立っていて、その中の赤いウェアを着たおばさんが私に聞いてきた。「今日初めて旭岳に来て、これが最初の1本なんだけど、初心者用のBコースはどこでしょう?。探しても見つからないので、ロープウェイで下山しようかと思っていました」。多分、ロープウェイを降りて左の脇の通路を見落として、駅舎に入ってしまったのだろう。駅舎を出るとAコースへの看板しかないのは、本当に不親切だ。「この左側をちょっと登ります。するとBコースという看板がありますから」そう言って3人を登らせた。雪はかなり強くなってきた。私はBコースをすでに2本滑っているからいいが、初めての人には赤いポールのコースは生還への道だ。遠くの景色などあったものではない。遠くに集団が見えたけど・・・行っちゃった・・・心細い限りだ。おじさんは「あ、分かりました、もういいですよ」とか言っているけど、大丈夫かなあ。促されたのでとりあえず先に滑り、あの上り下りを直滑降で突破してロープウェイの下へ出た。うっ、や、やばい。間違えやすい場所なのに標識など何も無いから、初めての人は左に曲がれずDコースへ行ってしまうだろう。しかもここはもっと分かりづらいし、地元ボーダーの変なシュプールに付いていったら大変なことになるぞ。私は「最後の目撃者」になりたくなかったので、鉄塔の前で3人が来るのを待つことにした。ところが、なかなか来ない。ああ、あの上りのコース前で直滑降をしなかったから、きっと息を切らしてカニ歩きで登っているのだろう。ロープウェイは止まってしまったようだ。ということは、後から誰もこないぞ。じっと20分は待っただろうか。するとおじさんの姿が見えた。ずっとうしろからおばさん2人が付いて来るのが見える。おじさんがびっくりして、「ありゃあ、待っていたんですか」と話しかけてきた。「ここ、変なシュプールとかあるけど、絶対、こちらに曲がってくださいね」それだけ言って先を急いだ。ほどなくCコースへ。ここはコースがはっきりしているから、もう間違えないだろう。山麓駅まですっとばしてスキー板を外した。そしてお土産を買い、あれこれやって帰ろうとしたらあの3人とばったり会った。旭岳が見えなかったのは残念でしょうが、なによりも無事でよかったですね。
駐車場に出てレンタカーのエンジンをかけて、さあ温泉でも行くかいと思ったら、なんと目の前で通せんぼをする人がいる。さっきのおじさんだ。「ちょっと今、お礼を買いに行かせているんで待ってください」それはカンベンだ。私はハンドルをたたいて「それは受け取るわけにはいきませんね」ときっぱり断った。しかしいくら説得してもおじさんはバックミラーをつかみ、受け取るまではこの手をはなさんぞという形相だった。するとあの赤いウェアのおばさんが袋を提げて走ってきた。中は1本のワインだった。受け取ってもらわないと困ります、というお代官様状態になってしまい、とうとう私は受け取らざるを得なくなってしまった。
私は今までスキーに限らず、何度もひとに助けられたものだ。それは救助とかいう大げさなものではなく、ちょっとした親切、心遣いのの積み重ねが多い。特にスキーにおいては転倒して板が外れたのを取ってもらったりとか、考えてみると特有の親切がいくつかある。こういった親切はその場でお礼を言って完結するものではなく、いわば持ち回りであって、必ず自分もいつかは他の人に親切にしなければならないと思っている。だからお礼にワインをもらうなど、信念を曲げるようなことなのだ。しかし3人は礼だの義だのといった教育を受けた世代なのか、受け取らないと本当にショックで寝込んでしまいそうな感じだったので人助けだと思って受け取ってしまったのだが、なぜか今でもしこりになっている。
私は海外スキーの経験が多いせいか、自然の中のスポーツでは、ルール違反の状況で事故に遭えば自己責任という認識がある。だからスキー場の管理外のエリアへ滑り出す連中を見ても「待ちなさい、君たち、危ないよ」なんて止めるようなことはしない人間だ。しかし天候の急変やスキー場の標識不足、一時はロープウェイで下山しようとした冷静さがある3人であり、無謀な輩ではなかったので「この3人を安全に下ろさなければ」という仲間意識があったのかもしれない。読者のみなさんには、自然の中で楽しむスポーツでは、時と場合によっては助け合わなければならない事もあるということと、親切は持ち回りであることを知ってもらえればうれしい限りだ。
温泉に入った後、山を離れると穏やかな夕暮れだった。旭川空港でレンタカーを返し、羽田から自宅に戻ったのは11時近くになっていたが、旭川遠征でのできごとや大雪山の圧倒的な風景はインパクトがあり、今でもなんだか海外遠征に行ったような不思議な印象がある。あなたもスキーヤーならば神々の遊ぶ庭、カムイミンタラ(大雪山)に一度は行ってみよう。 |
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朝のうちは混雑だ |
さあ、乗るぞ |
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ボーダーが多かった |
ロープウェイから。
ゾクゾクするコースだ |
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風が強かった |
これが駅舎だ。右奥がロープウェイの
発着の建物で、写真右側に通路がある |
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えびのしっぽができかかっていた |
いい天気になりそうだ |
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旭岳を背に! |
ここがポールでガイドされたコース |
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ロープウェイの下、鉄塔までは
平坦で、そのあたりに分岐がある |
Aコースのパウダーエリアを見る
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ボーダーの本領発揮だ
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エゾマツはスキーコース
に最もマッチする木だと思う
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下はよく晴れていた |
値段が高い時は
写真でがまんだ |
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ええと、ナキウサギだったっけ? |
こんな山です。
観光客もいたぞ |
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いい天気になってきた |
手前では煙がモクモクだ |
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Aコースのメイン |
森林限界が分かりやすい |
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疲れたときは熊力だ |
これは絵だ |
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気をつけてね |
時間が無いときはこれだ |
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近くにあるユースホステルだが
日帰り入浴ができる |
これがその露天風呂。
ちょっと狭いが人がいなくていい |
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煙を吐く旭岳の中腹。これを見るだけでもロープウェイに乗る価値がある
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非圧雪は開放されているのでボーダーにはうれしいが、リスクも確認しよう
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ロープウェイの窓越しにコースを見下ろす
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直滑降コース。人がいるのは、平坦なのではなく、上り坂だから、
安全な範囲で飛ばそう
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問題の分岐点。晴れているときは何の問題もないが、吹雪かれた時は、
「このへんに標識があったはず」と分かっていないと見落としやすい |
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旭川空港のレストランでは、今もミルクラーメンをやっていた。初めて来た時に食べたが、味はミルクっぽくなかった。で、今回は右のカニラーメンを食べた。壷に入っていて、味はカニが強すぎるが、いかにも北海道らしくていいだろう。 |
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