大泉清里
   

※写真の解像度を落としています。ご了承ください
     子供たちといっしょに                 
雪だるま 2004年レポート(7) 大泉清里サンメドウズ  

  
 今回のスキーレポートは趣旨が今までとはかなり異なる。今までのようなスキー場のコース・施設の実走レポートではなく、身体に障害のある子供たちにスキーを体験させるという、私が毎年参加しているボランティアのレポートだ。果たして国内レポートにするかエッセイにすべきか迷ったが、結局エッセイにはテキストリンクを貼り付けておいて、国内レポートの一環として上梓することにした。

 ところであなたは身体障害者のスキーというと、何を想像するだろうか。たぶん多くの人はテレビや雑誌などで見たことがあるであろうパラリンピックのようなスキーを思い起こすかもしれない。専用の器具を装着した障害者スキーヤーが障害の度合いに応じて競技をするものだ。しかし彼らの多くは後天的に障害を負った人が少なくなく、その場合は健常者の時にスキーを覚えていたという人が多い。しかし私が今回紹介するのは、先天的に身体に障害を負っている(脳性まひ等による知的障害も負っている)子供たちであり、普段は車いす、ないしは歩行器具を着けている子供たちばかりだ。
 普段はいつも座った状態で限られた範囲を行動している彼らにとって、スキー場に行ってスキーをし、顔に風が当たるというのは格別の感覚があるらしい。ただし身の回りの世話をするボランティアがスキーをするときに付いていてやれるとは限らない。特に最近の若い子はボーダーが多く、ボードは子供の世話をするには全く不向きだ(というか、できない。倒れた子を抱き起こしたりしないといけない)。
 私はもともと学生時代に身体障害の子供たちを映画に連れて行ったり、家庭教師をしたりしたことがあって、就職してからは忙しくてボランティアはご無沙汰していたのだが、1級を取ったことが知れ渡るや「スキーできるなら来てくれ」と、カムバックの声がかかったのだ。
 さて、前置きが長くなったが、そういうわけで3月下旬、このボランティアスキーで2泊3日のスキー行となった。場所は大泉清里だ。
右下に「身障者用P」とある
 

これがカラマツロッジだ
 
 早朝、養護学校に集合してバスでスキー場へ。今回のスキーは大型観光バス1台に乗用車数台の陣容だ。談合坂SAで休憩をいれる(談合坂には障害者用の施設が整備されている)。トイレ休憩で軽く30分はつぶれてしまうが、これも楽しいスキーツアーだ。歌でも歌いながら昼前には清里に到着した。つい最近に雪が強く降り、今日から晴れ始めている。春スキーとは思えないコンディションだ。

 大泉清里は以前はキッツメドウズという名称だったが、いつのまにやら経営母体が変わってサンメドウズという名称となった。しかしレイアウトや設備に変わりはない。特にこのスキー場を選ぶ理由は、東京から近いことと、特別に休憩施設があることだ。ゲレンデマップの中腹Cに「カラマツロッジ」があり、ここを借りて食事や着替えなどの世話ができる。ほとんどのスキー客はAのセンターハウスを利用するので、他の客に気兼ねすることなく利用できるのがいい。

 

ゲレンデマップ(大泉清里サンメドウズスキー場:旧キッツメドウズ)
キッズパーク&ファミリールーム
センターハウス
レストハウス ブルーム
カラマツロッジ
パノラマリフト
フラワーリフト
バードリフト
Aコース
Bコース
Cコース
Dコース
Eコース
Fコース
Gコース
   
ゲレンデに出るだけでも
一苦労だ
赤岳がかっこいい 
 

 
ゼッケンをつけて・・・
  

最初はこんなのを使ってみたが、
あまり意味がなかった
これがその秘密兵器だ
   
こら、よっかかるのダメ
   
 参加者した子供たちは30人ほどだが、約半数には母親が付き添っており、またボランティアの数も同数くらいいる。ただしボランティアには生活担当とスキー担当に分かれており、子供たちの食事や着替えの他、トイレや風呂などの生活まわりは生活担当のボランティアがやることになっている。こちらには学生やら若い女の子が多い。逆にスキー担当は男ばかりで大学のスキー部の学生から、口コミで集まった者が多いがちょっと不足気味だ。とりあえずレンタルの板をそろえ、ウェアに着替えてブーツを履き、みんながゲレンデにそろうまでがまた大変だが、このへんは生活担当も手伝ってくれるので助かる。
 カラマツロッジの前のEコースで集合写真を撮る。このEコースは実にいい。背後に八ヶ岳の主峰、赤岳が実にきれいだ。斜度は弱く、Fのリフトが止まっているので飛ばしてくる上級者がほとんどいない。準備体操(車椅子の子もそれなりに)をしたあと、それぞれレベルや事情、状況に応じて班分けになる。班といってもほとんどマンツーマンで、場合によっては2人で1人の子を見ることもある。
 私は日ごろの歩行は歩行器具(つえの一種)でできるというCちゃんを担当することになった。
この子は毎年来るので私も顔だけは知っていたが、今では養護学校は移ったらしい。しかしこのスキーが楽しみで今でも参加しているそうだ。
 まずはどのくらい滑ることができるか。残念ながらストックを持って立ってじっとしているのが精一杯で、滑りだそうものならコントロールはおろか、立っていることもできないという。去年までは、うしろから抱きかかえていたとスキー担当の前任者が言っていた。よし、とりあえずそこからスタートするか。
 うしろから抱きかかえて、ボーゲンで滑る。ところが重いのなんのって、しかもCちゃんは依頼心が強いせいかどんどん私によっかかってくる。これはいかん、自立の精神を持たせねば。だいいち私の腕がもたん。しかも板の先がフラフラして脇にある雪だまりに突っ込んでしまった。こうなると私も大変だ。カービングの短い板とはいえ、やわらかい雪の上では起きるのも一苦労だ。さらにCちゃんは両足がほとんどきかないし、知的障害も少しあるため、谷側の板がどうのという説明の仕方はダメなのだ。私はこのとき、やはりボランティアはショートスキーでなくちゃいかん、と確信したのであった(数日後購入し、立山山岳はこのショートスキーで行った)。
 クワッドリフトで上へ。赤岳を見ながらいい感じだ。このコースでは他の子供たちも滑っている。カラマツロッジ前に来たら他のボランティアが「この子の場合は、これを着けるんですよ」といって器具をくれた。左右のスキー板の先をつなげて角度をハの字に固定する器具だ。おお、こりゃあいいではないか。早く言いなさい。
 この秘密兵器を使ってやってみたら、なかなかいい。よし、これでいくか。しかし、いきなり困難にぶち当たった。左右の足への体重移動が難しいので、自分の意思ではなかなかターンができないのだ。ううむ、でもこれはいかんともしがたい。「なんでできねえんだ」と怒鳴るのは言語道断だ。日ごろのリハビリをやったうえでできないのだから、仕方が無い。

 もし「自分もこんなボランティアをしてみたい」という人で短気な人がいたら、注意してほしい。健常者に比べて上達の速度が遅いのは当然だし、年に1回しか行かない子が多いのでなおさらだ。教える者がちょっとでもイラついたりすると、子供は敏感に感じ取ってしまうものなのだ。ここはヘレン・ケラーの師であるサリバン先生を見習って辛抱強く、笑顔でいこう。しかし「障害者だからできない」と決め付けて考えるのは禁物だ。徐々にではあるが、上達はするものだ。できなかったことができるようになる喜びをスキーを通じて知るのは健常者だけではない。そして忘れてはならないことだが(実は一番大切なことだと思うが)、スキーの第一の存在意義は楽しむためにあるものであり、筋力だの根性だのを鍛えるのは二の次、三の次だということだ(もともとアルペンスキーはノルディックと異なり、レジャーを基盤に広まったものだ)。いつも車椅子に座っていたり、歩行器具で歩いている子供たちにとって顔に風が当たるのは健常者がジェットコースターに乗るような興奮があるという。子供たちの大はしゃぎやそれを見て喜ぶ親御さんを見ていると背中や腰の痛みも八ヶ岳の山のむこうへ飛んでいってしまうようだ。(Xちゃんのお母さん、すぐ「お金じゃ買えないわよね」というのにはまいりました)
 
 さて、スキーは3時ごろで終わる。生活担当が子供たちの着替えやトイレの世話をしているあいだ、スキー担当はつかの間のスキーだ(最初にゼッケンが支給され、これがリフト券の代わりになる)。2本ばかり滑ったあと、離れた宿泊施設へ向かう。養護学校が所在する区の施設だが、地方公共団体の建物は身体障害者への設備がいきとどいているのでいい。
 食事や風呂は生活担当にまかせ(私も昔やったことがあるが)、軽いミーティングのあと、ボランティアだけが集まって反省会、そのあとお母さんたちも入って10時ごろから宴会となる。それでも12時前には寝て明日に備える。
背負うようにして滑る
   
空を飛んでいるようだ
   
ちょっとつらいかな?
   
よし、いい感じだ
でもよっかからんでくれ
 ウダウダやりつつ、翌日9時ごろにはウェアを着て出発だ。今日は土曜日なので今日から参加のボランティアが数人加わった(私は金曜日に有給を入れた)。人数に余裕ができたので私は生活担当ボランティアの女の子と2人で昨日のCちゃんを引き続き担当することになった。
 さて、今日はどうしようか。とにかく後ろから抱えて滑るのは本人が自分で滑ろうとしないので(というより、立とうとしないので)良くないようだ。そこであれこれ考えたのが左の写真。私がかがんで背中に手をあてさせて滑ったものだ。これならよかろう。でも、すぐに全体重をのっけてこようとする。そこで私が手を後ろに回してぶれないようにし、できるだけ自分で滑るようにさせた。慣れてきたところで両手を広げさせて、滑ってみた。なかなかいい感じだ。本人もしっかりバランスをとろうと努力するようになった。ターンもしないでただ立って滑るだけだが、これでも日ごろの生活から考えれば大変なことだ。動力を使わずに走るようなスピードで動いているのだから。
 ただしこの姿勢では私のヒザと背中と腰が持たない。そこでできるだけ私の負担を軽減しつつ、補助を最低限にしようと、フードの後ろとつかんだりしたが、これは見ていてよろしくない。そこで思い切って緩斜面を何の補助もなく滑らせて見た。しかしスルスルとスピードが出るので、これはいかんとストックを差し出したが、自分から倒れこんでしまった。しまった、大丈夫か。ちょっと恐怖を感じたようだ。
 子供のころ「巨人の星」を見て涙を流して感動したという人は非常に危険だ。こういう時は星一徹になってはいけない。とにかく滑ることを怖がるようになっては何をしに来たのかわからなくなる。そこで考案したのがハの字のストック補助だ。持つところのストラップの輪にお互いのストックをくぐらせて結びつける。これで子供を挟み込むのだが、子供はこのストックの持つところをつかんで滑ることができる。ストックの方が後ろからコントロールしやすく、ゆるやかなターンもできるのでいい。なんてすばらしい、こりゃあ天才ではないか!。よし、これでいこう!。
 ところがしばらくするとCちゃんはこの持つところによっかかり始めるのだ。これはいかんと力を入れて支えると、ますますよっかかってくる。まるで50キロのカジキマグロを釣っているようだ。ストックがカーボンでなかったらひん曲がっていたんじゃないだろうか。ちょっとは仕事せい、と言おうかと思ったが、初めて上から下まで一気に滑り降りて、満面の笑みを浮かべるCちゃんを見るとこっちまでうれしくなってしまう。そう、スキーは楽しむことが第一だ。
 リフトでは係員の人にも手伝ってもらいながら乗る。リフトの上でのCちゃんは元気いっぱいで声もでかい。突然、「いぬぼうかるた!」とか叫ぶ。なんじゃそりゃあ。それは「犬も歩けば棒にあたる」のかるたのことだ。最近、全部覚えたらしい。何か聞いてくれとせがんでくるので「ろ」と言ったら「論より証拠!!」と大声で怒鳴る。前のリフトに乗っている人がびっくりしてこっちを振り返って見た。「ほ」と言ったら、「骨折り損のくたびれ儲け!!」おい、下で転んでいる人が俺に言っているのかと怖い顔で見上げてきたぞ。ボランティアの女の子は笑いながらちょっと声が大きいわよとか言っている。でもCちゃんは得意満面だ。なあに気にするな、いいぞ、ゲレンデのみんなにその元気を分けてあげなさい。清里のむこう、赤岳の頂までCちゃんの声が響き渡った。
  
  
   

   
みんな、元気か
 
ここも2人がかりのようだ
 
まだ外が明るいうちに夕食だ
 
生活担当は食事も大変だ
 
よくあることだ
 
ブーツを履かせるのも
コツがいる
準備体操だ
 
赤岳がきれいだ
 
ここは一人で滑ることができるようだ
 

ここはスキー担当が2人だ
 

最近、こういうのが増えた
 
転んでしまいました
Gコースだ。
Cちゃんはここだけを使った

クワッドコースに行く!ときかなかった子だ。
結局滑れなくてこうして降りた


 サイトの趣旨からだいぶ離れるので、レポはここまで。また、プライバシーの問題もあるので、子供たちの表情を鮮明にお伝えできないのが残念!。
 ところで、スキーのボランティアはまだ数が少ない。もし興味があるなら、シーズンはじめにはいろいろと募集もあると思うのでヤフーボランティアその他で探してみるといい。

 ヤフーボランティア

 大泉・清里サンメドウズ公式サイト