夏スキー! | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2002年レポート(6) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
役所の定義などどうでもいい。このサイトでは一般スキーヤーが「ここがひとつのスキー場だ」と思っているであろうという方法で定義している。 例えば赤倉温泉は「赤倉観光ホテルスキー場、京王赤倉チャンピオンスキー場、赤倉中央スキー場、くまどースキー場」など複数のスキー場を総称しているもので、ガイドブックによっては2つに分けたりしているが、私はこのサイトでは1つでカウントしてレポートをまとめている。ご存知、志賀高原も厳密には20ほどのスキー場の集合体だが、私は1つと数えている(私が行ったスキー場は国内だけで150ほどになるが、数えようによっては180を超える。海外と合わせて200以上になるから、このサイトの名称を「200 SNOW REPORTS」とした)。 前置きが長くなった。私が言いたいのは、今回のレポートは厳密にはスキー場ではないが、多くの人がスキー場だと思っている所のレポートであるということだ。 乗鞍雪渓(観光案内では「大雪渓」と豪語している)はリフトも無ければスクールも管理人も何もない、ただの「雪溜まり」である。 しかし私が興味を持つようになったのは、2級取得後の8月にニュージーランドへ行った時に、よく行動を共にした名古屋から来た夫婦の話であった。ダンナは1級で、夏場は毎週のように「乗鞍雪渓」に行っているという。「え?何それ?」スキー場の名前くらいはほとんど知っていたが、そんなスキー場聞いたことがない。実はこれはザウスの無い中京方面のスキーヤーにとっては貴重な夏場のトレーニング場でもあるのだ。聞くところによると、8月でも雪が残っており、土日は乗鞍へ上る登山客を横目にスキーヤーが板を担いで登り、滑っているという。そんな、板を担いで登って何が面白いのか。疲れて終わるのではないだろうか。ダンナは「でも1日で10本は滑りますよ」なんて言っていた。 やがて東京圏のスキー場のほとんどを滑りつくしてしまうようになると、だんだん気になるようになった。とくに今シーズンの私は、この緊急レポートのシリーズで分かるように、かなりマニアックな場所が多い。しかも2003年からはマイカーが入れなくなるというではないか。ううむ、これは行くしかない。 かくして、平日休みで7月18日(木)に行く事になったのである。 行くにあたっては、特別な準備が必要である。それは、情報収集である。 実を言うと、乗鞍雪渓は乗鞍高原スキー場のはるか上部にある。その乗鞍スキー場までは冬でも除雪しているのだが、スキー場内の国民休暇村脇のゲートから上は通行止めである。気が向くとGWあたりに途中の小屋まで関係者の車両が上がるらしいが、マイカーはだめ。乗鞍高原のペンションの車が客を上げることもあるらしいが、出発と帰る時の時間は固定される。雪渓までマイカーが上がれるのは6月下旬である。必ず電話をかけて確認をとろう(本当のフリークはGWでも休暇村から徒歩で登って雪渓を滑るとか)。 なお、本年は春が早く来たが6月に入って山頂付近でドカ雪があったので、夏スキーとしては例年並の量だという。7月上旬には山頂のスカイラインまで開通したことを確認したが、2発の台風によって落石の恐れが出たため、道路は雪渓までOKだとか。とにかく注意が必要だ。本当は開通してすぐの木曜日を狙っていたが、直前情報で、落石のため乗鞍高原より上は通行止めになってしまったので延期したのだ。いきなり行かなくてよかった。とにかく交通情報と雪の情報は直前までおさえよう。 東京を5時半に出る。渋滞ゼロだ。松本ICから山道をトロトロ登る。途中、ダム近くの野麦峠スキー場との分岐を乗鞍方面にとり、乗鞍高原スキー場の脇から急な坂道を登る。小さな雪渓があちこちに点々としているのが見えるとウキウキする。そして雪渓の駐車場へ到着。乗用車はこれより先は通行止めだった。 駐車場は狭い。何とかぎりぎり入れたが、後から来た人たちは路上駐車だ。施設といえば、ハエのいっぱいいるトイレが1つあるだけで、あとは何もない。ほとんどの客が登山客だ。目の前の雪渓ではレーサーたちの一団がポールを立ててトレーニングをしていた。「あら、あの人たちスキーなんかやってるわ」「よっぽど、スキー、すきーなんだろ」何台か隣の車から降りてきたアベックが大変面白いことを言っておった。反論の余地はない。そう、一般人から見れば、もう病気の世界だ。アベックが遠くに去るのを見計らってブーツに足を通した。 板をリュックにくくりつけて、両手にはストックで登る。山岳スキーじゃあるまいし、たいした距離ではないので板を肩で担いで上るのが通常だが、ためしにやってみた。この方が両手のストックの力で上れるしスキーブーツでもバランスがとりやすいので楽チンだ。ザラメの雪をシャクシャク音を立てながら登る。とりあえず駐車場のすぐ上の雪渓を登りきる。ベースで標高2,600mだから、運動不足の体ではちょっと息が苦しい。よく見ると雪渓は横に大きく広がっており、左隣の方が広いようだが、下が途切れているので駐車場のすぐ近くへは行けない。「この1本でやめよう」悪魔のささやきというよりも、最初からこのつもりの根性無しだ。でも、来ただけのことはある。コロナ観測天文台が見える。登山道の方では、平日とは思えないほどの数の観光客と修学旅行らしい中学生が山頂目指して登っている。1km以上離れた所を歩いているのに、話し声が思いがけないほど近くに聞こえる。晴天だが薄雲が広がっていて、遠くの景色は見えないのは残念だ。左の雪渓では別のチームがトレーニングをしていた。平日でこの調子だから、土日はもっと人がいるだろう。それにしても高所で板を担いででもスキーをやるとは何と過激なことか。 そもそも、乗鞍雪渓に来るスキーヤーは山岳派である。フランス革命での山岳派(ジャコバン派)は最も過激であった。つまり、こういう雪渓に夏でも来るのは、過激であるということなのだと納得がいったのであった。私には真似できない。 ゆっくりすべる。雪質は悪く、スピードを上げないととてもパラレルはできない。ベンディングの小回りで降りる。あっという間だったが、満足の1本であった。駐車場の近くではプロみたいな機材を持った写真家たち(ほとんど高齢者)がさかんに道路脇の高山植物を撮影していた。 さて、どうしようか。まだ11時だ。こういう時のオプションで上高地も考えていたが、遠くが霞んだ曇天では行っても意味はあるまい。このサイトでも定番の温泉は、7月の炎天下では行く気にならない。ポカポカ温まったら、ゆでダコになってしまう。近くの名所といえば野麦峠がある。そこは冬場は道路が閉鎖されているという。せっかくここまで来たのだから行ってみるか。こうして野麦峠へ行くことにした。 今朝来た道をダムまで降り、分岐を野麦峠スキー場へとる。そこから先は通称野麦街道だ。野麦峠は野麦峠スキー場のちょうど対面くらいにある。スキー場への本道から分かれて峠へ向かう。ここからはあまり良い道ではないので注意が必要だ。ほとんど車が通らない。観光バスとは1台だけすれ違ったが、道幅が狭いので要注意だ。ちなみにこのへんに群生しているクマザサは、平地が飢饉になると不思議と実がなり、食料代りになったという。この実のことを「野麦」というらしい。くねくね登りきり、やっと峠に到着した。平日のせいか、人はほとんどいない。 峠には完全に観光化された「みねの茶屋」という食堂と、「お助け茶屋」という食堂兼宿泊施設がある。腹が減っていたので、最初に目についた「みねの茶屋」に入る。客はだれもいない。受け付けのオヤジがうつ伏して寝ていたので起こす。鱒が一匹付いた具沢山という「きのこ汁定食」を頼み、奥のテーブルに着いた。隅に置かれたテレビでは映画化された「ああ野麦峠」のビデオを流しっぱなしにしていたが、えらい画像が汚い。よく見たら、途中で井上陽水のセフィーロのCMが入る。えらい昔の録画ビデオを無断で流しているのだろう。すると定食が出てきた。 ここまで悪く前置きしてきたのを見て、勘のいいあなたはお気付きだろう。そう、とんでもない定食である。見た目もすごいが、味もすごい。メザシになりそこなったような鱒の甘露煮は奇形のようにそっくり返っており、甘すぎて食えたもんじゃない。きのこ汁は塩からくて飲めたもんじゃない。それに酸っぱい野沢菜と着色料たっぷりのドピンク色のたくあんに、シナチクが丸くなったような常に疑惑のつきまとう煮物、そしてご飯だ。私は修行に来たのではない。しかもそれが1,000円、千円、せんえんである。だいたい、「みね」というのは小説「野麦峠」のモデルとなった政井みねという実在した女性(岐阜から長野県岡谷に製糸工場に働きに来て病気になり、兄に背負われて峠まで来て、ここで故郷の飛騨の山を見て息を引き取った。20歳の時だ。)のことだが、その名前を使って一見客相手に商売するのはいいとしても、相場から考えてひどいんじゃないの?。いや、価格の問題ではない。とにかく食えないのだから、話にならない。ああ、まずかった。 いくつもある記念碑を見ていると、あの小説や映画のヒットに便乗して(悪ノリして)作られたようなものが多い。最近になって建てられたものが多いのだ。兄に背負われたみねの像の顔を見てるとこちらの寿命が縮みそうだ。 少し登ったところに政井みねの墓があるというので行ってみたら、苔むす墓石がひっそりとあった。これには思わず合掌。しかしその隣のニギニギしい説明文の記念碑と、5mほど離れた場所にある高さ3mくらいの真っ白い気持ち悪い顔の観音像は私の期待通りであった。悲惨な目に遭った女工は多かったが、たまたま野麦峠で亡くなったからヒロインになったのであって、それはたまたま日記を残して有名になったアンネ・フランクに似てなくもない。でも、やっぱりこういう個人的な例が無いと人々は過去を忘れてしまうんだろうなあ。なお、ここからの乗鞍の眺めはすばらしいというが、晴天にもかかわらず遠くが霞んでいて見えない。残念。 「お助け茶屋」は昔からあって、実際にみねに粥や甘酒を出したらしい(その時はもう受け付けられないほど悪くなっていたそうだが)。よく見たらこっちの方が客が入っているではないか。しまった、こっちにすればよかったか。あなたは間違えないように。 帰ろうかと思ったら、すぐ近くに立派な3階建の資料館があった。ええと、500円か。高いな。すると窓口のおばさんが窓をあけて客引きまでしやがる。マーケッターの血が騒ぎ、入ってみることにした。 中は野麦の四季のビデオ上映をしており、あとはこのへんの集落の倉庫からかき集めてきたような昔の日用品の展示だ。かなり映画や小説を意識しており、この地は養蚕や製糸とは関係ないのにカイコの生態や生糸を紡ぐ機械まで展示していた。通路は野麦越えをする女工たちの想像図ばかりだ。渋谷の109で使われていたようなマネキンに昔の服を着せても、髪型からいってめちゃくちゃだが、よしとしよう。ネタが尽きたのか、1階は「全国の峠」と題して、各都道府県から1つづつ代表的な峠の写真を展示していた。もうやけくそだ。でもまあ、よしとしよう。あなたは私のHPを見て省略するのがよい。 帰りは松本ICまで直行。時間があったので岡谷で降りて、市立岡谷蚕糸博物館に寄る。350円だが、生きたカイコもいるし、機械も多く生糸に関しては本格的な内容だ。ただし岡谷という町は映画などでは良いイメージで扱われていなかったのか、女工に関する「野麦峠」にまつわる展示はほとんど無かった。 たった1本、数十メートルのスキーであったが、充実した1日であった。 |
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標高2600mだ | 一般客は雪渓脇の登山道を登る。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
機材はプロ級だ | カメラマンがやたら多い | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
駐車場を見下ろす | こうして見ると広い | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
肩の口小屋は立派だ。 300mm望遠レンズで |
こういうスキーもいいもんだ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
野麦街道のバス停。 昔の民家風だとか |
峠越えで吹雪かれた人のための 避難所。中は10人は入れる |
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旧野麦街道の入り口。 女工たちはここを登っていった |
お助け茶屋だ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
峠の資料館 | こんな髪型して化粧が厚い女工が峠越え するわけないでしょ |
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夏でもスキーだ! | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
とにかく、観光協会や休暇村などに電話して、道路の状況をチェックしよう。たとえ晴天でも落石があって道路は閉鎖ですなんてことがあるからだ。 ※2003年7月より、三本滝から大雪渓まではマイカー規制となり、実質的には乗鞍観光センターからバスに乗り換えることになる。以下のURLで長野県公式サイトを見てチェックしておこう。念のため、状況を電話等で確認するといい。 長野県ホームページ 乗鞍岳交通規制 |
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